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大阪家庭裁判所 昭和43年(家)7818号 審判 1968年11月18日

申立人 石田三男(仮名)

被相続人 徳田太市(仮名)

主文

本件申立はこれを却下する。

理由

一、本件申立の趣旨は、本籍並びに住所大阪府○○市大字○○○△△△番地石田宏(昭和二三年四月一八日生)に、別紙目録(一)および(二)記載の、被相続人徳田太市の相続財産の全部を分与する旨の審判を求めるというのであり、しかして、その実情の要旨は、

(い)  被相続人は、申立人の父亡石田善一の母ヨネの妹ミツの三男であり、また、石田宏(以下宏という)は、申立人の二男であつて、被相続人とは六親等内の血族の関係にあるものである。

(ろ)  被相続人は、農業をいとなみ、田三反八畝余、畑三畝余を耕作していたのであつたが、妻子がなく孤独なうえ、老令であつたため、申立人方では都合のつく範囲でその手助けをしてきており、なお、そのほかの日常生活上の事柄についても、被相続人は、全く、申立人方を頼りきり、暇さえあれば、申立人方を訪れて、家族の一員のようにしていた。

(は)  しかるところ、被相続人は、昭和四一年六月五日午後五時一〇分頃、○○市○○町の府道を自転車にのり通行中、岩崎晃の操縦する原動機付自動二輪車にはねられ、治療約六か月を要する左大腿骨々折の重傷を負い、同市の河合病院に入院し、加療の結果、一応、退院することはできたが、その後は、歩行困難で、独りずまいでは、日々の生活もできない状態であつた。

(に)  そこで、申立人方では、挙措の不自由な被相続人を引取ることにし、かくして、申立人、宏らは、以来、被相続人を家族の一員として取扱い、生計を同じくしながら、終始、懇切に、その療養看護に努めていたところ、その間、被相続人は、自分の相続人として宏を、是非、養子にもらいたいと熱望するようになつて、大阪家庭裁判所に養子縁組許可の申立をし、審理の結果、昭和四一年一〇月二二日許可の審判を得たのであつた。しかし、その後、都合により、両者間の正式な届出が遅れているうち、被相続人は、昭和四二年三月一三日申立人らの不在中に、食べた物が咽喉につまるという不慮の事故により死亡してしまつた。

(ほ)  かかる経過で被相続人が死亡した後、相続人のあることが明かでなかつたので、申立人は、特別縁故者の一人として、大阪家庭裁判所に相続財産管理人選任の申立(当庁昭和四二年(家)第二五七三号事件)をし、審理の結果、丸山幸一がその管理人に選任され、以後、関連規定による一連の諸手続がとられて、終局的に、昭和四三年九月三〇日の経過とともに、被相続人については、相続人である権利を主張する者がないことが確定した。

(へ)  以上のしだいであるが、上記の諸事情よりすれば、宏が被相続人と、最も厚い特別縁故関係にあることはもとよりであるというべく、したがつて、宏に相続財産の全部を分与することは、被相続人の意思を尊重、これに従うと同時に、その霊を慰めることになると考えられるので、そこで、申立人は、ここに、民法第九五八条の三の規定にもとづき、宏に別紙目録(一)および(二)記載の、被相続人の相続財産の全部を分与する旨の審判を求めて申立におよんだ。

というのである。

二、よつて、審案するに、民法第九五八条の三には、前条の場合において相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があつた者の請求によつて、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。前項の請求は、第九五八条の期間の満了後三か月以内にこれをしなければならないと規定されており、その立言の仕方からすれば、相続財産の分与は、特別縁故者自身の請求をまつて行われるべきことは明瞭なわけであるが、更に、進んで、一つの問題とされている、請求者以外の特別縁故者にも、相続財産を分与することができるか、否かということについては、前法条の立法過程として一般に明かにされているところの、当初においては、家庭裁判所の職権で相続財産の分与をする方法、相続財産管理人が特別縁故者の名簿を作つて相続財産の分与を請求する方法、或は、広く利害関係人からの請求を認める方法なども審議されたのであつたが、結局、特別縁故者自身の請求によらしめることにしたのであるという経過等にかんがみると、これを消極に、すなわち、請求者以外の者には、いかに特別縁故関係があつても、相続財産を分与することはできないと解するのが妥当であり、遠慮深くて請求をしなかつた者を救うことなどを考慮に入れて、前法条中の、これらの者という文言は、請求者以外の特別縁故者もふくむ趣旨であるとまで解するのは相当でないと判断されるところである。ところで、いま、これを、本件の場合につきみてみると、申立人は、宏が被相続人と最も厚い特別縁故関係にあることを強調し、申立人自身ではなく、宏に、別紙目録(一)および(二)記載の相続財産の全部を分与する旨の審判を求めているのであるから、したがつて、上記の見解に従うときは、その主張は、それ自体失当であると結論するのもやむをえないと思料されるところである。

三、以上の次第により、本件申立は却下することにし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 中島誠二)

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